平成27年9月4日~5日に韓国・ソウルで開催された、第16回日韓合同研修会(KJYPA)のご報告をさせて頂きます。日本からは9名、韓国からは21名という規模で行われました。
1日目はMin先生のWelcome Speechで始まり、西園先生による日本の精神療法の現状と問題、続いてYu先生から韓国における精神分析の展望をお話いただきました。西園先生は、精神療法が日本では優先順位が低いと考えられていることを問題に挙げ、精神療法を習得する精神科医と薬理のようなバイオロジーに進む精神科医に二分化している、と日本の現状を報告されました。そして韓国の4年間にわたるトレーニングシステムを例に、精神科医として必要なコミュニケーションスキルなど基本的な所から治療的側面まで、精神療法のスーパーヴィジョンを受けることの重要性を再度ご指摘されました。さらに、現代社会で精神分析や力動的精神療法は衰退傾向にありますが、完全に無くなってしまうことは決して無いことをPPST(Pharmaco Psycho Social Therapy)の観点から強調されており、個人的に大変心動かされるご講演でした。それと関連し、Yu先生の韓国における精神分析の展望では、西欧から発した精神分析に対する日本と韓国の姿勢の差が表れていました。同じアジア圏でも文化の差が反映されているように私には感じられましたが、かといって日本の精神科医療に分析的な考えが必要ではないということにはならないと思い、改めて今の日本社会にどう適応させていくかと考えさせられました。
2日目は安東先生の熱意が伝わってくるケース発表と、Jang先生のしっかりとケースフォーミュレーションされた発表に大変心奮わされ、初心に帰る思いでした。続くChoi先生・加藤先生・長先生のご講演は新鮮な視点で面白く知識を共有してくださいました。加藤先生のひきこもりとmodern-type depressionのご講演では、複雑に絡み合いながら激動する日本社会の中でこれらの病態を位置付けられており、そのような視点で自分の患者さんを再評価してみるきっかけとなりました。長先生は被災地におけるアルコール問題から、日本特有のカルタを治療に導入するという、全く聞いたことがない話に目を見張りました。
最終プログラムはこのKJYPAの今後についてWhy・How・Whatの3つの視点からWorkshopを行い再評価しました。今回の各先生方のご発表にはっきり表れていたように、ひとつのKey Wordはやはり「文化」であると考えました。近いようで遠い日本と韓国ですが、共通している価値観も多く、精神医学が文化と密接に関連していることを考慮すると、各々が相補関係にあるのではと感じます。日本における問題の鍵が韓国にあり、逆もまたそうなのではないでしょうか。今後ともこの会を通して、歴史的にも切り離せない日本と韓国の若手精神科医が交流し、ますます両国の精神医学が良い方向に発展することを願っております。次回17th KJYPAは、平成28年8月26日~28日に福岡にて開催されます。奮ってご参加ください。
慈圭病院
権淳嗣